常滑の鍾馗さん

鍾馗さんとは

ここでいう「鍾馗さん」とは、主に屋根の上にある陶製の守り神(20-40cm程)を言います。瓦鍾馗とも言われます。
病気を治す健康の神様、学問の神様、雷避けの神様、火事除けの神様などと信じられています。
近畿、東海地方を中心に多く見られますが、他の地域ではお札(おふだ)、のぼり(旗)、掛け軸などの絵、屏風、五月人形、わら人形、ねぶた、神楽などと表現は様々です。
常滑街道沿いの家々の小屋根、大屋根には多くの鍾馗さんが載っており、京都の中心部を除けば、この風習が日本で最も広がった地域だと言えます。 

鍾馗さんとは何か?

「鍾馗」とは?
所説ありますが、 西暦600年代前半に中国に実在した人物(終南県:中国陝西省出身)といわれています。
科挙(官僚登用試験)合格を目指す非常に優秀な人でしたが、制限年齢に達するまで合格できなかったと伝えられています。
当時の高祖皇帝(566-635年)はそのことを哀れに思い、役人にしか着られない緑色の服(緑袍)を着せて丁寧に葬ってやったとのことです。
その後、玄宗皇帝(685-762年)がマラリアにかかった時に夢に現れ小鬼を退治したことから、鬼より強い鍾馗と言われるようになりました。
日本には平安時代に道教の神様として伝わり、徐々に魔除けの神様や学問の神様として一般にも普及していきました。

なぜ屋根の上に?

江戸時代後期の考証家である石塚豊芥子は、次のような話があると紹介しています。
そしてこの話が広まって、今も20,000体近い鍾馗さんがあると推測されます。

鬼瓦看発病 (現代語訳)
文化2年(1805年)の夏ごろ、京都の三条あたりにある薬屋が屋根にとても大きな鬼瓦を作った。
向かいの家の奥さんは、その鬼瓦を初めて見た時から気分が悪くなり、とうとう寝込んでしまった。
医者があらゆる治療を施しても効果がなく、一体どうしたものかと考えていた。
困って「何かきっかけになるような事があったんじゃないですか?」 と聞いてみたところ、奥さんは「最初に向かいの鬼瓦を見た時から気分が悪くなったんです。」と話した。
医者がこれを聞いて、「こんなことで怖がる必要なんてないですよ。いい方法があるから任せなさい。」と言い、深草の焼き物屋に頼んで、瓦で鍾馗(しょうき)の像を作らせた。
そして、それを自分の家の屋根に載せたところ、間もなくその奥さんの病気はすっかり治ったという。
要するに、この奥さんは鬼瓦を見て心が乱れ、その結果病床に伏せることになった。
医者はその話を聞いて「なるほど。」と昔の話を思い出し、鍾馗の像を作ってこの病を取り除いた。
その結果、病気が全快したのは実に不思議で見事なことである。
(街談文々集要 巻二 (石塚豊芥子) 第四 鬼瓦看発病 より)

常滑にはどこにあるの?

常滑街道沿いに沢山見つかります。特にお寺の周りには多くあります。
その理由は、鬼の顔をした鬼面鬼瓦は、お寺に設置されることが多いからです。
前述のように鬼瓦の向かいに鍾馗さんを載せたら病が治ったことから、自宅がお寺に近い場合鍾馗さんを載せた方が良いという噂が広がったのでしょう。
そして、セントレアにも5体あります。鍾馗さんの載っている屋根が日本らしい風景ということでしょうか?

2024.6-2025.5調査の確認数

愛知県は日本一お寺の数が多い。
次の資料のように愛知県は断トツにお寺の多い県であり、 お寺には鬼瓦が有るということから鍾馗さんが多いと言えるでしょう。

令和5年 宗教年鑑より 寺院数

1	愛知県		4532
2	大阪府		3370
3	兵庫県		3286
4	滋賀県		3204
5	京都府		3051
6	千葉県		3001
7	東京都		2879
8	新潟県		2755
9	静岡県		2609
10	福岡県		2365
11	三重県		2347
12	北海道		2312
13	岐阜県		2242
14	埼玉県		2270
15	神奈川県	1905
16	奈良県		1803
17	広島県		1704
18	福井県		1672
19	和歌山県	1585
20	福島県		1531

参考文献

小沢正樹 『鍾馗さんを探せ!! 京都の屋根の小さな守り神』淡交社 2012
川村裕子 「屋根の上の鍾馗様 」南山大学人類学博物館館報 31 号 1994
角南聡一郎 「瓦鍾馗の研究」志学台考古第8号 2008 pp.16-28
服部正実 洛中・洛外の鍾馗 1996
月刊大和路 ならら 2009.6
杉山美奈子 瓦鍾馗を通して見る京都 立命館京都学 優秀卒業論文集2015
高原 隆 鬼師の世界-三州鬼瓦の伝統と変遷
彦根鍾馗さんマップ
山口建治 鍾馗と牛頭天王
久居ふるさと郷土会 久居の瓦鍾馗
土谷輪 魔除け都市の構造 京都大学院修士論文 2017
桜井幸江 「唐鍾馗全傳」について お茶の水女子大学中国文学会報 第五号 
タウン誌Acoreおおみや 特集「岩槻まちめぐり『鍾馗』さんをさがそう」